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2009/09/17 UPDATE #004

坂本龍一×湯山玲子 男女公論

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第三章
「オトコは”女の戦い”を知らないんだよね」

坂本:湯山さんの書いた『女装する女』(※1)、面白く読ませてもらいましたよ。周りの女性陣にも薦めたんだけど、みんな「そう、そう」って頷いていたもんね。この本に対象化されている「女」って、女性自身も今までどう語っていいか分からなかったことだったみたい。

湯山:女の人は元気で強い、なんて今いわれてますけれど、どうだかな? オバマ大統領(※2)じゃないけど黒人みたいなもので、子供の頃からソーシャルな圧力が女性に対しては強くて、男性ほど無邪気に生きていけない。だから、女性ってとてつもなく打たれ強いし、ワンキャラクターだけだとそれがなくなったとき、世の中生きて行けないから、いろんなアスペクトを持っていて、それをいいとこ取りする、という。

坂本:本に書いてある通り、「~するの女」みたいに作り方のバリエーションがすごく増えたってことだよね。ボーヴォワール(※3)じゃないけど、「女」ってのは作られるもの。自分自身で作りもするし、作っていかないとやっていけないっていう。

湯山:作らないととりあえず男をモノにできませんからね。そういう、一見ナチュラルに見えて、その実、かなり意識的な努力と「備えよ、常に!」みたいなヒリヒリ感の中で生きているにもかかわらず、世の男性はそのことを知らないみたいで、「女はいいな」なんて最近、言いはじめている。

坂本:女性の内なる「女の戦い」を知らないんだね。やっぱり男性優位の社会が、ついさっきまであったわけだからね。だから女性は自分を磨くしかなくて。でも磨いちゃうと文化度が高くなっちゃうから、男性から見たら「やめてよ!」みたいな(笑)。

湯山:女性って、男が自分に欲情してくれなくなると、相当、アイデンティティクライシスに陥ってしまうから、、そこは悩みどころなんですよね。自分よりも上の女、ってまだまだ、男は苦手としているもの。特に日本人の男は途端にタチが悪くなる(笑)。そういう女はだから、男の前では鈍いふりをしなくちゃならない、と。それなら、もっと世界フィールドで男を捜してもいいと思いますよ。日本の男があれこれいちゃもんつけてうるさいなら、さっさと海外流出すればいい。案外、国とか関係ないですよ。女はそういう、アナーキー(※4)なところがあると思う。だから男の人は色々な制度で縛るんだと思いますよ。

(※1)湯山玲子の著書。
女装する女のほか、エコに身を捧げる女、ブログで自己主張する女、マラソンに命をかける女……など、現代女性を消費の面から10のキーワードで痛快に読み解いている。
2008年12月、新潮社発行。
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(※2)言わずと知れた第44代アメリカ合衆国大統領。
共和党ブッシュ政権がアメリカにもたらした暗雲を払拭すべく、「CHANGE」をスローガンに民主党より出馬。ヒラリー・クリントンとの熾烈な候補者争いを制し、その勢いのままに共和党マケイン候補を撃破、初の黒人大統領へと上り詰めた。
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(※3)フランスの作家、哲学者(1908-1986)。サルトルの実存主義に加担するとともに、フェミニズムの立場から女性の解放を求めて奮闘。ジェンダー論の基礎を作った。代表作は『第二の性』。なお、サルトルとは事実上の夫婦関係にあたる。
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(※4)無政府状態のこと。
フランス革命下のフランス、スペイン内戦下のスペインなど、革命や内戦によって既存の行政機関が崩壊し、新たな政府が樹立されない状態をいう。
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坂本:女の人はどこへ行っても生活できるよね。バリ島(※5)に住んでいる日本人女性なんて、もう3千人もいるんだって。

湯山:それはもう移民の域じゃないですか。

坂本:そう、移民。当然ハーフの子たちもいっぱいいるんだって。でも一時流行った、OLが砂浜でオイルマッサージしてもらって現地の少年達と遊ぶ、みたいなのとはどうも違うらしいんだよね。それとは別の考え方みたいで。

湯山:もうちょっと根源的なものも感じているかもね。現地の男性って、まだまだストレートに欲望を女性にぶつけてくれそうだもんなぁ。女性を必要としている、というパッションというか。そういうビビットな男の人との付き合いってのは、日本にいると希薄になっているから、そういうのに魅かれてるんじゃないかな。

坂本:母なる大地を求められる状況なんて、今の日本はないもんね。逆にその大地性みたいなものに目覚めちゃっているんじゃないかな。

(※5)インドネシアの島。
1970年代にスハルト政権下で行われた観光開発により、世界的な観光地へと成長。ヒンドゥーやイスラム文化に通じる多種多様な寺院のほか、ガムラン音楽やケチャなどの伝統芸能も有名で、日本からは年間40万人程の観光客が訪れている。
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湯山:生き物として必要とされる私、みたいなものに目覚めさせられちゃった感じだと思うなあ。セックスやりまくったとしても、東京でするのとは訳が違う、といいますかね。やっぱりあの風土が、セクシーさを人間からガンガン引き出しますよ。私なんかも状況が揃えば、一発でハマると思いますよ(笑)。

坂本:漁師とか、そういう感覚かもしれないよ。思い出すのがね、アフリカのモザンビーク(※6)に 行った時に、本当に貧しいところなんだけど、街にもひとつしかレストランがなくて、そこで食べていたら奥の方から日本語らしきものが聞こえてくるのね。 「こんなところで日本語かよ」って思って見に行ったら、日本の漁師だったんだよね。遠洋漁業の漁師がいて、酔っぱらっているんだけど、日本では見たこともない絶滅種をモザンビークで見た!ってすごい鮮明に憶えているんだけど。怒鳴ったりして威張り散らして。世界中のいろんな港でそういうことをやってるんだろうなあ。

湯山:港ごとにオンナがいるというアレですな。でも、それはオトコとして、生き生きするというか、すごく楽しいんじゃないかな。

坂本:根源的な男の在り方っていうか、狩猟みたいなものだよね。

湯山:逆に会社のシステムって、農業ですからね。暦をみて、計画を建てて、生産の方法を考えて、っていうシステムだから。そのシステムがこれだけ、しっかりと成熟して、機能していると、日本の男の人から「狩るぞ!」みたいな根源的な欲求が薄れるのも、ちょっとわかるかも。

次章へ続く・・・

(※6)アフリカ大陸南東部に位置する共和制国家。
16世紀よりポルトガルの植民地であったが、1975年に独立。その後、15年にも及ぶ内戦を経てイギリス連邦加盟国となった。
現在は好調な経済成長を続けている半面、HIVやエイズの蔓延が問題となっている。
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PROFILE

湯山玲子 1960(昭和35)年・東京生まれ。
出版・広告ディレクター。(有)ホウ71代表取締役、日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。
編集を軸としたクリエイティブ・ディレクション、プロデュースを行うほか、自らが寿司を握るユニット「美人寿司」を主宰し、ベルリンはコムデギャルソンのゲリラショップのオープニングで寿司を握るなど日本全国と世界で活動中。
著作に文庫『女ひとり寿司』(幻冬社)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、新書『女装する女』(新潮社)。プロデュースワークに『星空の庭園 プラネタリウムアフリカーナ』(2006夏 六本木ヒルズ展望台)、2009年まで通年の野宮真貴リサイタルなど。


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